電子公告 調査委託や公告自体を怠った場合について

 電子公告は掲載したが電子公告の調査を電子公告調査機関に求めなかった場合、また電子公告自体を怠った場合は、どのようになるのでしょうか。

第1 電子公告は掲載したが、電子公告の調査を電子公告調査機関に求めなかった場合

1 調査委託義務がない場合

 先ず、電子公告の調査を電子公告調査機関に委託する義務が法令上ないもの(決算公告など)については、問題とはなりえません(例:会社法941条第1括弧書(以下、第1に於いて「会社法」略))。

2 調査委託義務がある場合

 次に、電子公告の調査を電子公告調査機関に求める義務が法令上あるものについては、次のような問題が生じます(941条)。

(1)制裁

 941条の義務を怠ったものとして、刑を科すべきときを除き、100万円以下の過料に処せられます(976条35号)。

(2)公告の効力

 ただ、調査機関による調査を求めなかった場合でも、当該公告の効力自体には影響を与えないものとされています(下記 参照文献Q23より)。

(3)登記申請との関係
  • ア 登記申請に、調査結果通知書の添付が要求されている場合

 もっとも、資本金の減少・合併など多くの場合では、登記申請添付書類として「公告をしたことを証する書面」の添付が要求されています(商業登記法70条、80条3号)。
 そうすると、調査機関の発行する調査結果通知書以外に「公告をしたことを証する書面」を用意することは事実上困難といえます。
 その結果、通常は資本金の減少・合併の登記がされないこととなってしまうでしょう。

  • イ 登記申請に、調査結果通知書の添付が要求されていない場合

 このような場合でも、適法な公告が行われたかどうかにつき争いが生じた場合に、調査を受けていないと、会社が適法に公告を行ったことを立証することは非常に困難となります。

(4)過去に遡っての電子公告調査

 電子公告の公告期間が経過した後に、電子公告調査を求めることができるでしょうか。
 そもそも電子公告調査機関には、インターネット上の電子公告を、調査委託の有無に係らず、網羅的に収集、保存するような義務は課されていません(946条参照)。
 そうすると、収集・保存していない電子公告を、後になって調査・証明することは不可能と言わざるを得ません。
 仮に、調査の委託がなされていない電子公告につき、電子公告調査機関が義務なく収集・保存していたとしても、制度の仕組みからして、調査を求めることを要するのは、電子公告の調査開始前になされることなどが前提となっています。
 従って、仮に義務なく収集・保存していた電子公告調査機関があったとしても、様々な点で問題が生じます。よって、本来法令が想定している電子公告の調査とは、言えないのではないでしょうか。

(5)結論

 上述(2)のとおり、調査機関による調査を求めなかった場合でも、当該公告の効力自体には影響を与えないものとされてはいます。
 とはいえ、(事前に)調査を求めなかった場合には、非常に大きなリスクを負うことになってしまいます。
 そのため、調査の委託を怠ることがないよう十分注意すべきではないでしょうか。

※以上 参照文献
「Q&A 平成16年改正会社法 電子公告・株券不発行制度:法務省民事局法制管理官 始関 正光 編著」 

第2 電子公告自体を怠った場合

1 制裁

 先ず、刑を科すべきときを除き、100万円以下の過料に処せられます(会社法976条2号)。

2 登記申請との関係

  • ア 登記申請に、調査結果通知書の添付が要求されている場合

 上述のとおり、登記申請添付書類としての「公告をしたことを証する書面」の添付ができないことになります。その結果、通常は資本金の減少・合併の登記ができないこととなってしまうでしょう。

  • イ 登記申請に、調査結果通知書の添付が要求されていない場合

 このような場合、登記申請との関係では問題になりません。

3 公告原因との関係

 例えば、新株発行についての公告を欠いたにもかかわらず、新株を発行してしまった場合、その新株発行自体の効力はどうなるのでしょうか。

 新株発行無効の訴え(現 会社法828条1項2号等)が提起された事例において、公告という公示がない場合には原則として新株発行は無効となるとされました(詳細は下記)。

【最高裁 平成9年1月28日第三小法廷判決】
第1審、原審(控訴審)ともに新株発行を無効と判断したので上告がなされ、最高裁は次のように判示して上告を棄却。

<判旨>
原審の適法に確定したところによれば、上告会社の昭和六三年六月の新株発行については、(一) 新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知がされておらず、(二) 新株発行を決議した取締役会について、取締役Dに招集の通知(同法二五九条ノ二)がされておらず、(三) 代表取締役Aが来る株主総会における自己の支配権を確立するためにしたものであると認められ、(四) 新株を引き受けた者が真実の出資をしたとはいえず、資本の実質的な充実を欠いているというのである。
原判決は、このうち(三)及び(四)の点を理由として右新株発行を無効としたが、原審のこの判断は是認することができない。けだし、会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであっても有効であるから(最高裁平成二年(オ)第三九一号同六年七月一四日第一小法廷判決・裁判集民事一七二号七七一頁参照)、右(三)の点は新株発行の無効原因とならず、また、いわゆる見せ金による払込みがされた場合など新株の引受けがあったとはいえない場合であっても、取締役が共同してこれを引き受けたものとみなされるから(同法二八〇条ノ一三第一項)、新株発行が無効となるものではなく(最高裁昭和二七年(オ)第七九七号同三〇年四月一九日第三小法廷判決・民集九巻五号五一一頁参照)、右(四)の点も新株発行の無効原因とならないからである。
しかしながら、新株発行に関する事項の公示(同法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから(最高裁平成元年(オ)第六六六号同五年一二月一六日第一小法廷判決・民集四七巻一〇号五四二三頁参照)、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であり、右(三)及び(四)の点に照らせば、本件において新株発行差止請求の事由がないとはいえないから、結局、本件の新株発行には、右(一)の点で無効原因があるといわなければならない。
したがって、本件の新株発行を無効とすべきものとした原判決は、結論において是認することができる。
  
  ※筆者 注)商法二八〇条ノ三ノ二(現 会社法201条2項及び3項)
        商法二五九条ノ二(現 会社法368条1項)
        商法二八〇条ノ一〇(現 会社法210条)

4 結論

 上記の判例によれば公告を欠いた場合でも例外事由にあたることが認められれば、公告の原因となった行為は無効とはならないことになります。
 とはいえ、上記1、2に加え、例外事由にあたることの証明をしなければならなくなるなど、非常に大きなリスクを負うことになってしまいます。
 そのため、やはり公告を怠ることがないよう十分注意すべきではないでしょうか。